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主催事業情報 2026/11/8 アンドレアス・シュタイアー、チェンバロで奏でるゴルトベルク変奏曲(インタビュー)

©Andrej Grilc

 

作品への敬意があるからこそ、気軽には取り組めないのです

 

聞き手・文 那須田務(音楽評論家)

 

 ドイツを代表するチェンバロ、フォルテピアノ奏者のアンドレアス・シュタイアーの来日公演が迫っている。

ドイツ音楽、とりわけバッハを得意し、2024年にライプツィヒ市からバッハ・メダルを授与された。

今回取り上げるのは、J.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》。2009年に録音された同曲のCD(ハルモニア・ムンディ)は世界中で高く評価され、日本でもレコード・アカデミー賞を受賞した名盤だけに期待が高まる。

来日を前に、ドイツのケルンに住むシュタイアーにオンライン・インタビューを行なった。

 

 

―まずは、《ゴルトベルク変奏曲》との出会いから尋ねる。最初に聴いたのは誰の演奏だったのだろう。やはりグールド?

「いえ、確かカール・リヒターのレコードだったと思います。でも、この作品を強く意識するようになったのは13、14歳の頃です。当時のピアノの先生が、バッハの《フーガの技法》と《ゴルトベルク変奏曲》をテーマに、週末の三日間にわたるコンサートを開いたのです。上級の生徒たちが作品を分担して演奏し、連弾で取り組む子供たちもいました。

僕はその先生が大好きで、ほぼ百歳で亡くなる数年前まで交流が続きました」


―シュタイアーは1983年に伝説的な古楽アンサンブル、ムジカ・アンティクワ・ケルンのチェンバリストとしてデビュー。3年後にソリストとして活動を開始し、数多くのCDをリリースしてきたが、《ゴルトベルク変奏曲》はデビューからおよそ20年後、満を持しての録音だったのだろうか。

「キャリアをそこまで綿密に計画していたわけではありません(笑)。自然な流れのなかで、『今なら弾ける』と感じたのです。

もちろん演奏の技術的な問題ではないですよ。満足のいく演奏には経験が必要だからです。演奏時間が1時間半にも及ぶ大作を、ひとつの大きな形式として捉え、全体を見通さなければなりません。

実際、この作品を演奏する機会はそれほど多くありません。一シーズンに一度ではなく、少なくとも3回は弾きたい。ある時期に繰り返し演奏することで、作品のなかに深く入っていけるからです。

2000年のバッハ記念年には頻繁に演奏しましたが、その後、長い間まったく弾かない時期もありました。

作品への敬意があるからこそ、気軽には取り組めないのです」


―録音から年月を経て、今改めてこの作品を取り上げることで、新たな発見もあるのだろうか。そう尋ねるとシュタイアーは頷き、「長年にわたって作品の細部まで考え続けてきた」と明かした。

「私がいかに細かなことにこだわる人間なのか、お話しましょう(笑)。たとえば、変奏曲の真ん中よりも前に置かれた4度(第12変奏)と5度(第15変奏)のカノンについてです。

これらの位置を巡って研究者たちの間で様々に議論され、バッハは当初全24曲を想定していたのではないか主張する人もいます。変奏の土台となるのはアリアの旋律ではなく、低音の進行です。

バッハはその上に模倣する声部の音程を少しずつ広げながらカノンを配置しましたが、4度と5度のカノンでは旋律を上下反転させるという特別な手法が用いられています。

そこで旋律を反転させずにカノンを書いてみましたが、うまくいきませんでした(笑)。このように作品の構造について深く考えることはあります。

でもそれが必ずしも演奏解釈の変化に繋がるわけではありません。

経験や思考を重ねることで演奏は変わっていくのでしょうが、何が重要な変化なのか、自分ではすぐには分からない。

以前とは違う演奏を意識的に目指すのではなく、作品と向き合うなかで自然に変わっていくのだと思います」


― 《ゴルトベルク変奏曲》には有名な逸話がある。フォルケルがバッハの息子たちに取材して著わしたバッハの最初の評伝(1802年)によれば、不眠に悩むカイザーリング伯爵が、夜の慰めとして、バッハの弟子で伯爵のお抱えの鍵盤楽器奏者ゴルトベルクに演奏させるために作曲を依頼したというものだ。シュタイアーは、バッハと伯爵が親密な関係にあったこと、ゴルトベルクが作品の成立に何らかの形で関わった可能性は認めつつも、確かなことは言えないとし、こう付け加えた。「この作品を聴いて眠れるかどうかは疑問ですね。私自身は聴いていると心が躍ってしまい、まったく眠れません(笑い)」

 

―では、バッハはなぜ、これほど大規模な変奏曲を書いたのだろうか。話題は晩年の創作姿勢へと移る。

「バッハは晩年のおよそ10年間に、《フーガの技法》や《音楽の捧げもの》など、ひとつの主題を徹底的に掘り下げる作品を数多く書いています。

限られた素材から、さまざまな技法を用いて表現の可能性を追求することに強い関心を持っていたのでしょう。伯爵からの依頼があったとすれば、ならば、ひとつの主題による変奏曲を書こうと思ったのかもしれません。

作曲を進めるうちに、次第に規模が大きくなっていったとも考えられます」

 ひとつの主題から広大な音楽世界を築き上げる。その背景には、数学的ともいえる緻密な構造と合理性があるのだろうか。「もちろんです。全体がきわめて合理的に、緻密に計画されていることは間違いありません。その意味で、18世紀の哲学にも通じる合理主義的な性格を持った作品といえるでしょう」

 

最後に日本の聴衆へのメッセージをお願いすると、「神奈川県立音楽堂をはじめとする日本のホールで演奏できることを、とても光栄に思っています。

日本は私が最も演奏したい国のひとつですから、心から楽しみにしています。その一方で、少し怖い気持ちもあります。この作品は本当に難しいですからね」

と笑顔で答えてくれた。

 

 


音楽堂ヘリテージ・コンサート

アンドレアス・シュタイアー チェンバロで奏でるゴルトベルク変奏曲

 

2026年11月23日(月・祝) 14:00開演
神奈川県立音楽堂

 

J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲 BWV988

 

全席指定・税込 一般6,500円 ほか(発売中)

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